BAG MAKERS TOKYO

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CROSS POINT : Artisans × Designers 東京のクラフトマンシップを魅せる、新しいバッグのかたち

2026.01.30

対談

BAG MAKERS TOKYO × nendo コレクション「MAQL」の共作過程

日本のものづくりには、着物の裏地や内側の仕立てにまで心を配るように、「見えない部分」まで徹底する美意識が息づいています。しかし、その繊細な技術の多くは、完成したプロダクトの奥に隠れ、あまり意識されることなく生活に溶け込んでいます。
東京のバッグ・革小物のクラフトマンシップを発信するプロジェクト〈BAG MAKERS TOKYO〉と、デザインオフィス〈nendo〉がこのたび発表した「MAQL」は、そうした職人の仕事を“あえて表に出す”ことをコンセプトとしたバッグコレクションです。
素材や構造に精通し、確かな品質をつくりあげる職人と、固定観念を揺さぶる視点を投げかけるデザイナー。裏と表の境界を曖昧にし、使い手自身が「捲る(まくる)」ことで完成するこのプロダクトは、異なる言語を持つ両者が創造力を引き出し合い、ひとつの形として着地させた結晶です。その共作のプロセスから、メイド・イン・トーキョーのバッグが持つ新たな可能性を紐解きます。


職人:佐藤 学(美嚢)、安田 明宏(curuhi)
デザイナー:田中 健太郎(nendo)、成瀬 峻(nendo)

ディテールの美しさに気づく体験設計

—— 今回のデザインの着想は、どのようなところから始まったのでしょうか。

成瀬: 最初にBAG MAKERS TOKYOに参画するいくつかの工房に伺ったのですが、そこで職人の皆さんに強みを聞くと、皆さんとても謙虚で「そんなすごいことをやっているわけでもないから……」と仰るんです。でも、実際の制作現場では、見えない細部や裏側にまで凄まじい技術が詰め込まれている。派手さはなくても、その精密な作業の積み重ねに驚きました。普段、バッグや財布を使う時には見過ごされがちなこうしたディテールを、あえて表に出す。それを「捲る」という能動的な体験で伝えたいと考えたのが出発点です。

田中: 僕らはバッグづくりの専門家ではないからこそ、業界の内側にいたらタブーとされる仕様や、非効率だと言われるような形もフラットに提案できる。単に「バッグとして美しい」という枠を超えて、ふと目に留まったときに「これは何だろう?」と問いかけてくるような、アイコニックな佇まいを目指したんです 。

想像を具現化する、緻密な制作プロセス

—— 今までにない形を、どのように実現していったのですか?

成瀬: 今の時代、デジタルで複雑な3Dモデルを描くことは難しくありませんが、それがそのまま現実のプロダクトとして成立するわけではありません 。革という天然素材の「揺らぎ」や、縫製機の限界、物理的な強度の問題。それらに直面するたびに職人の皆さんと議論し、仮説を立て、試作を繰り返しました。

佐藤: 一見すると構造はシンプルですが、シンプルなものほど誤魔化しがききません 。特に苦労したのは「捲った時の形」です 。自然なハリを出すために、革の間に薄い芯材を挟み込み、縫製前に型に押し当ててクセをつける「成形」の工程を導入しました 。さらに、折り返す端部には一定のピッチで「ギザ(切り込み)」を入れています 。縁の部分をあえて手縫いで寄せることで、機械では出せない柔らかな丸みが生まれ、形状が安定するんです。

安田: 私の工房では、バッグの構造をそのまま小さくした「MAQLチャーム」の制作を担当しました 。最初にデザインを見たときは、正直「無理なんじゃないか」と思いました(笑)。特に素材が特殊で、本来は隠れるはずの「床面(裏面)」を貼り合わせて表に見せるため、床面の表情も美しくなければならない。立体的な型を用意し、ミリ単位のズレも許さない精度で革を貼り合わせるなど、培ってきた経験に新しいアプローチを掛け合わせる試行錯誤の連続でした。

「できない」の先にある創造性

—— コラボレーションの過程で、どのような気づきがありましたか?

安田: 長年この仕事をしていますが、こんなお題はなかなかありません。自分たちだけだと「効率」や「常識」が先に立ってしまいますが、nendoさんの視点が入ることで型にはまった考えを鮮やかに打ち破ってもらえました 。実際に制作している工房に集まって膝を突き合わせて議論できる「メイド・イン・トーキョー」ならではの近い距離感があったからこそ、ここまで熱量高く向き合えたのだと思います。

田中: こちらが無理難題をお願いしているのは重々承知していましたが(笑)、職人の皆さんはそれを技術的なアイデアで返してくれる 。例えば、あえてコバ塗りをせずに積層を見せることでコンセプトをより強調する断面の仕上げなど、ディテールの積み重ねが僕らの想像を超えた共作の結果として現れています。

佐藤: もし、最初に「できない」と突っぱねていたら、どこにでもある無難なものしか生まれなかったはずです。やったことがないことも、とにかく一度やってみようと腹を決めました 。裏側のミシン目や断面が剥き出しになる分、一針の乱れも許されない。縫製位置や糸のテンションをすべて手作業で調整し続けるのは骨が折れる作業でしたが、だからこそバッグという枠を超えたものづくりができたと思います。

バッグを超えて、「存在」になる

—— 完成してみて、今どのような手応えを感じていますか。

田中: バッグとして機能することは大前提ですが、同時にこのプロダクト自体が東京の職人技を雄弁に語るプレゼンテーションでもあります。だからカラーバリエーションも豊富にして、店頭に並んだときの可愛らしい存在感も意識しました 。美しさと技術のバランスを全員で突き詰めたことは、僕らにとっても大きな経験になりました。

安田: 普段作っている財布などの小物とは全く違う作り方でしたが、小物の技術を活かして「作れる一番小さなサイズ」に挑むのは刺激的でした 。私たち財布職人にとってキャッシュレス時代への適応は大きな課題ですが、用途が決まっていなくても「ファッションアイテム」として完成されているこのチャームは、業界のこれからを考える大きなヒントになりました。

佐藤: 業界内だけでは絶対に生まれなかった作品です。バッグとして使うのはもちろん、インテリアとして置いてあっても違和感がない。革製品としてのアートピースになった感覚があります。

成瀬: どこを触っても職人の手の跡や技術が感じられる仕上がりになりました。完成品を受け取って終わりではなく、「捲る」という動作を通して使い手自らが形を整え、バッグを完成させていく。そのプロセスに、職人の手仕事への親しみや愛着を重ねてもらえたら嬉しいです。
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